てきぱき物語

マコト
  • マコト(24)
  • 同僚や後輩に頼られ、ようやく社会人としての自覚と自信が備わってきた。しかし、ただのリーマンになりたくないと思っており、「起業」精神はまだ不滅である。

episode 3 『2009年早春 不況の影響で出張自粛』

このごろ社内で見かけなかった後輩のアサノにまたも廊下で声をかけられ、僕は導入した業務端末について礼を言われるのではないかと期待したが、そんなことはまるでなく、渋い表情でまた依頼をされた。期待した自分がばかだったとつくづく情けなくなる。

「マコトさん、ひさしぶりっす。またちょっと検討してほしいことがあるんですけど、とりあえず聞いてもらっていいですか?」
「君ねえ、この前も話したけどちゃんとしたフローがあるんだからそれに従えよ」episode 3『2009年早春 不況の影響で出張自粛』
「まあ、まあ、いいやないですか?ちょっと話を聞いてもらえへんかなと思っただけですから。マコト先輩は僕らの味方やと思っとるから頼んでるんやないですか」
どうして逆ギレされるのか全くわけがわからない。僕が憮然としていると、アサノが「すみません、ちょっといらいらしとったもんですから」とつぶやくように言った。弱っているようだ。

「なんだよ。聞くよ」
「あのぉ、顧客とのトラブルがあって、中国の倉庫と話をせないけないんですけど、直接行って話さんとらちあかんと思っとるんですわ。現地の担当者は日本語ができるんですけどいまいち伝わらんくて。メールでも限界が。。。ところがこのところの不況で、うちの会社も出張を自粛せなアカンようになったり、国際電話も制限があったりで踏んだりけったりでなかなかすんなりと話がまとまらんくて、弱っとるんですわ」
そういえば、総務から業務連絡があって、カラーコピーや出張・国際電話まで経費削減案に含まれていたなと僕は思い出した。カラーコピーは当然だとしても、海外とのやり取りが多いと、メールですまないことはテレカンになるだろうに、とうとう当社も100年に一度といわれている不況の影響を受け始めているのだとつくづく思わされた連絡だった。

「君が言いたいのは、出張しなくてよくて、きちんと相手に内容が伝わる環境を提供してほしい、ってそういうこと?」
「さすが、マコト先輩。おっしゃるとおり。やっぱりマコト先輩に話してよかった。先輩サイコーですわ。携帯電話といい、グループウェアといい、なんでも先輩なら解決してしまうんやから」
すっかり自分のトラブルを解決できた気になっている。相変わらず調子のよい後輩に僕はあきれたが、一方でこいつはやっぱり憎めないと思ったもの事実だった。

「君の言いたいことはわかったからフローにしたがって申請してね」
「了解でございます」
アサノは敬礼して立ち去ろうとした。が、振り向いて「先輩、お礼を言うのを忘れてました。携帯電話の導入に協力していただいてありがとうございました。本当に先輩のご尽力のおかげでとても助かっとります」と言った。
僕はあっけにとられた。まともにお礼を言える奴だったんだ。

「いや、別にお礼なんて・・。」と僕の返事も待たないうちアサノは立ち去ってしまった。いつもならむかつくのだが、忙しいのだろう、と最大限好意的に解釈した。
デスクにもどった僕は、インターネットを介して会議ができ、ドキュメントの共有ができるシステムが確かあったなと思い出し、早速調査を開始した。

episode 4 へ続く