TEKI-PAKI コラム
エグゼクティブプロダクトマネージャ
米国PMI認定PMP
琉球大学非常勤講師
第三回:テンプレートで手軽に始めるプロジェクト管理
プロジェクト管理は、どこから始めれば良いのか?
プロジェクト管理は正直大変です。プロジェクト管理のコンサルタント専門の会社が幾つもありますし、プロジェクト管理の教育だけでもそれこそ山のようにあります。書店に行けば、PMBOKガイドの様な分厚い参考書籍もありますし、さらにその解説本まで多数あり、正直どこから始めれば良いのか逆に迷ってしまいます。近代プロジェクト管理はその範囲があまりにも広いために、正直すべてを一度に導入する事など到底不可能です。そんな中一番簡単にスタート出来て、効果が大きいプロジェクト管理の施策は「テンプレートによる業務の標準化」です。標準的な業務フローをプロジェクトテンプレートに記載して、このテンプレートに従って計画を立てるように現場に徹底する事で、プロジェクト管理能力の大幅な向上が実現します。
プロジェクト管理がうまくいかない原因の大半は、実は社内で業務が標準化されていない事に起因していると言えます。個々人の経験に業務が依存しているために、担当者のスキルによって精度や品質にバラツキが生まれてしまいます。例えば見積にしてもスキルの高い人と経験の浅い人とでは、精度がまったく異なります。
WBS(Work Breakdown Structure)を作るにしても、フェーズの分解の仕方が人によってバラバラだったりします。過去の経験が共有されていないため、誰かが同じ失敗を繰り返します。経験の長い人は過剰に余裕期間を入れたがるために、不要にコスト高の見積を出す傾向があったりもします。このように、人によって計画の精度や粒度にバラツキがあると、WBSを作成したとしても顧客に対して見積の根拠を示す説明能力が弱まります。
テンプレートの目的は、誰が担当してもテンプレートのフローに従って作業するだけで、標準化された計画や見積を作成出来るようにして属人的な作業のブレを最小限にし、品質を均一化する事です。Project 2007のテンプレートを使うと簡単にこのような業務の標準化が実現します。一般的にプロジェクト管理の導入には、現場の強い抵抗があるものです。人は仕事が増えたり自分の裁量範囲が減る事に対しては抵抗しがちです。しかしテンプレートを準備する事は、現場の作業量が減少するために抵抗なく実施出来る施策です。
テンプレートには何を定義するのか
以前の日本の会社でしたら、経験のある上司が手取り足取り新人に対していわゆる仕事の「ダンドリ」を教えていたわけですが、特にIT業界では業務や技術が大幅にスピードアップした結果、業務のナレッジを社内で共有して、OJTでスキルを移管する事が困難になってきました。その結果仕事のやり方がどんどん属人的にってしまっています。テンプレートに定義するのはいわゆる仕事のダンドリです。例えば「要件定義が終了したら、上司のレビューを得る」「開発が終了してから、開発者とは別の担当者がテストを実施する」「お客様とのレビューミーティングの前に成果物のPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)によるチェックを実施する」といった事を、具体的な作業指示としてテンプレートには定義していきます。テンプレートには、会社としての標準的な業務フロー、工期見積、余裕期間、担当者に求められるスキル、役割、レビューのタイミング、などとその実施の順番が記載されています。テンプレートに従って計画を作成する事で、経験の少ないプロジェクトマネージャでも精度の高い標準化された計画の作成と精度の高い見積を作る事が可能になります。
プロジェクトの成功は、計画段階で八割方決まります。計画の精度が低ければ、そもそも計画と実績の対比が出来ないので正確な進捗管理が出来ません。プロジェクトがうまくいってるのか危ないのか、正しい判断すら出来なくなってしまいうのです。計画の立て方がバラバラだと進捗管理も属人的となり、共通の指標によってプロジェクトの進捗を把握する事も出来なくなります。テンプレート上に会社としてプロジェクト横断的にチェックする必要があるマイルストーンを定義する事で、進捗管理が標準化出来ていきます。
実際のテンプレート
それでは、実際のお客様のテンプレートを見ていきたいと思います。
■弥生会計の開発テンプレートまずご紹介するのは「株式会社弥生」の弥生会計の開発テンプレートです。(ダウンロードはこちらから。)
このテンプレートは、実際に株式会社弥生のPMOが「弥生会計」や「弥生給与」「弥生販売」といった製品開発を行うにあたって使用しているものです。このテンプレートは総期間が107日で、タスクの数が428行になる非常に詳細なものです。「製品開発」「マニュアル」「ヘルプ」「UIデザイン」「品質保証」という5つの大きなフェーズに関して詳細なタスクを定義しています。このように、テンプレートは、出来るだけ詳細に作成する事が重要です。大項目だけを記載して、後は現場で詳細化して下さいとテンプレートを作成しても、現場のプロジェクトマネージャーはそのまま詳細化せずに、大項目だけで計画を立ててしまがちです。出来るだけ標準テンプレートは、詳細化してむしろ無用なタスクを、プロジェクトマネージャーに消去してもらうように作成すべきです。またそれぞれのタスクには期間が設定されていますが、これは過去のプロジェクトの実績を反映させて規定しています。
また、各タスク同士は「依存関係」でリンクします。つまりどのタスクが終わったら、次に何を実施するという関係を定義するわけです。このように依存関係でタスクをリンクしておくと、プロジェクトの開始日を設定するだけで、全てのタスクの開始日、終了日が自動計算されてきますし、万が一計画が遅れた場合にも自動的に計画全体が再計算されます。
■Microsoft IT - WAN回線のインストール次にご紹介するテンプレートは、マイクロソフトが社内のネットワーク敷設に利用しているテンプレートです。(ダウンロードはこちらから。)
このテンプレートでは、各タスクに標準リソースと単位数がそれぞれ定義されています。シニアマネジメント、プログラムマネージャー、プロジェクト管理者など、それぞれ、業務の遂行に必要になるスキルや職務を定義して、どの会議には誰が出席しなければならないか、どの業務は誰と誰が担当するかを規定しています。実際に計画を立てる場合には、このテンプレート上の標準リソースを実際のメンバーで置換して使用します。単位数とは、その担当者がタスクに対して1日の作業時間の何パーセントを費やせばよいかを示しています。このように詳細に人員計画のひな形もテンプレートには定義が出来ます。
このテンプレートでは、タスクのメモが付けられており、そこにドキュメントやポータルサイトのリンクが定義されています。(ダウンロードはこちらのページ内の「PMBOKテンプレート」から。)このように、タスクにメモとリンクを定義する事で具体的な業務指示を行えます。テンプレートの標準化を詳細に実施している会社ほどこのリンク機能を多様している傾向があります。

▼メモをクリックすると、ファイルのLINKを表示
また、このテンプレートには、WBS辞書というビューが定義されています。このWBS辞書とは、そもそもそのタスクは、どういう目的なのか詳細を記載するものです。タスクの責任者や、要素成果物、開始判断の基準、終了の基準などのフィールドが定義されています。このようなフィールドを準備する事で、PMOはプロジェクトマネージャーに対して、各タスクのより詳細な情報を記載するように指示する事が可能になります。
▼WBS辞書
テンプレートとは、会社のあるいはPMOがプロジェクトマネージャーに対して業務を作業指示するためのツールだと言えます。このようなテンプレートを開発の種類別、お客様別などに整備する事で、初めて担当するプロジェクトマネージャーでも容易に業務をキャッチアップする事が可能になってきます。
精度の高いテンプレートを作成する
テンプレート自体の精度を向上させると、当然プロジェクトの成功率が高まってきます。そのためには終了したプロジェクトの結果を再びテンプレートとして再利用する事が重要です。実際のプロジェクトを経たプロジェクトファイルは見積が実績で上書きされて、より実際的な見積の基礎値となります。不要なタスクが削除され、必要なタスクが追加されてきます。リソースにも必要なスキルが追加されてきます。このように、開発終了したプロジェクトファイルをテンプレートとして再利用する事で、より精度の高い計画作成が可能になってきます。テンプレートは会社の標準作業を規定して、見積根拠を提供する会社の資産です。このようなテンプレートを多数整備する事で、会社の業務の効率化とナレッジの共有、そしてプロジェクト管理の実践が進んでいくのです。
このようにプロジェクトテンプレートの作成は、業務の標準化を進める上で最も効果的な手法だと言えます。テンプレートを作成するのは、通常PMOの仕事です。PMOがリーダーシップを発揮して、現場からプロジェクトファイルを収集して、テンプレートを標準化して情報ポータルに掲載します。テンプレートを作る事が、プロジェクト管理の第一歩でありテンプレートさえ作れれば実際のところプロジェクト管理は半分以上成功したようなものです。
では、どうすれば、簡単にテンプレートを作れるのか?
こちら弊著「世界一かんたんProject 2007 計画作成のコツ」(アスキー 1,300円)が参考になるのではないかと思います。



