TEKI-PAKI コラム
エグゼクティブプロダクトマネージャ
米国PMI認定PMP
琉球大学非常勤講師
第二回:進行基準の導入に備えるには?
工事進行基準とは何か?
企業会計基準委員会(ASBJ)が、昨年12月に「工事契約に関する会計基準」を発表しました。「工事」というと建設や土木、造船が対象のように思われますが、今回この会計基準は受託ソフトウェアの開発も対象としています。工事進行基準の導入は日本の会計基準を国際会計基準へ対応させていく様々な取り組みのうちのひとつです。これまではソフトウェア開発では、開発が終了してお客様から検収を貰った時点で売上げを立てる「完成基準」が一般的でしたが、2008年4月以降は進捗状況に応じた売上げを計上する「進行基準」が原則となります。実施まで準備期間がさほど無いことからIT業界には不安が広がって来ています。
対象は?強制なのか?
今回の進行基準の対象は広範囲で、上場・非上場や会社の規模を問いません。ただし、「一定の条件に当てはまる工事契約には、工事進行基準を適応する」事が義務づけられるとされているため、一定の条件に当てはまらない場合は、従来通りの完成基準の適応が可能ということであり、今すぐ全てのプロジェクトで導入が必須というわけではありません。一定の条件とは「工事収益総額、工事原価総額、決済日における工事進捗度」を、信頼性をもって見積もる事ができない場合です。
しかし長期的には、顧客のベンダー選定の条件に進行基準適応を必須とする事も考えられます。進行基準に適応出来ないという事は、ベンダーがプロジェクト管理が出来ていないと言う事と等しいからです。いずれにしても長期的には、対応しなければならないのが進行基準という事になります。
現場では何を準備すればよいのか?
工事進行基準に対応するためには、厳格なプロジェクト管理が必須になります。特に現場で重要になってくるのが、厳密な見積もりと、的確な進捗管理です。日本のIT業界は慣例的に要件定義が終わる前に開発を「見込み」でスタートさせたり、要件が確定していないのに、設計・開発・テストなどの下流工程も含めた見積を一括でするなど、見積もりが甘い業界でした。進行基準において工事進捗率は、総原価に対する発生原価の比率で把握しますので、総原価がブレる事がない堅い見積もりが必要となります。
プロジェクト管理において見積もりを厳格に行うには、詳細なWBSの作成が重要です。WBSを使った見積もりでは、細分化された個々の項目について工数を見積もった上で、それらを積み上げることで、全体の工数を求めています。必要な作業項目が漏れなく充分に詳細なレベルまで洗い出されていれば、得られる見積もりも充分に正確なものとなります。これまでのソフトウェア開発の現場では、大項目レベルの大まかな計画しか立てずに作業を始めることも多く、過小見積もり発生しがちでした。WBSを使うことで厳密で、希望的観測ではなく根拠のある数値に基づいた、現実的な計画を立てることが可能となります。
まずはプロジェクト毎にWBSをきちんと作る事が、見積もりの厳密化の基本になります。
WBS作成はプロジェクト計画の初期に行う作業で、プロジェクトで実施されなければならないすべての作業を洗い出し、同時にプロジェクトマネジメントにおけるコントロール単位や担当者を明確にするものです。WBSはその後の日程計画(ネットワーク図など)、予算/コスト管理(EVMなど)、調達管理(外注化判断)、リソース計画(役割分担表など)、といったプロジェクト管理のベースとなるもので、プロジェクトマネジメント全体の基盤となります。
WBSはまた、見積もりの妥当性を示す、有力な資料となります。 WBSを作成することで、顧客に対して、正確でかつ説得力のある見積もりを提示することが可能となります。
進捗の管理
これまでソフトウェア開発プロジェクトでは、進捗管理を厳密に行わずに終盤になって急にプロジェクトが火を噴いて、結果不採算に終わるといった事も多数ありました。工事進行基準では、基本的に進捗率は、原価比例法で算出します。重要になるのがいかに実際発生原価を算出するかです。ソフトウェア開発において、開発コスト≒人件費と考えられます。従って人月単価の異なるプロジェクトメンバーがそれぞれのプロジェクトに対して、どれだけ作業を行ったのかをきちんとトラッキングしていくことが重要になります。近年では通常一人のメンバーは、複数のプロジェクトにアサインされている事が多いので、単純に出退勤時間からは個々のプロジェクトに作業時間を把握する事が出来ません。プロジェクト毎の作業時間を把握するシステムが必要となります。
Microsoft Office Project Server 2007 を使用すると、プロジェクトメンバーはブラウザーや、Outlookから自分にアサインされたタスクの一覧を確認して、それぞれのプロジェクトに対して作業時間を報告する事が出来ます。プロジェクトマネージャーは、メンバーからの報告を確認して問題がなければ承認出来ます。
このように、Project Serverを利用するとプロジェクトの実績作業時間のトラッキングと計画との差異の把握が容易になってくるのです。
工事進行基準導入のメリット
工事進行基準の導入は、決してネガティブなものではありません。見積もりの厳格化、進捗管理、受託前の認憑を明確に行う事は、そもそもソフトウェア開発にあたり、きちんとやらなければならなかったプロセスです。これらのプロジェクトマネジメントの実践は、プロジェクトの見える化を実現し、業務時間管理の適正化や無駄のないリソース配置を実現します。工事進行基準の導入は、長期的には日本のIT業界の成長を加速するものに違いありません。



